株式報酬の無償交付に関する会計処理方法は?【具体的な経理処理を確認!】

会計・税務

2020年9月、企業会計基準委員会より、

実務対応報告公開草案第60号
「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」

が公表されました。

この公開草案は、取締役の報酬等として株式を無償交付する場合の会計処理と注記について定められたものです。

今後、取締役の報酬として株式を無償交付する案件が増えてくると思われますので、この公開草案の内容および具体的な会計処理の方法について確認していきます。

公開草案が公表された経緯

まず、2019年12月に公布された改正会社法において、取締役の報酬等として株式を無償交付することが認められました。

この改正会社法では,上場会社が取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないことが認められています。

今回の、会計処理および開示を定めた
「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」
は、この改正会社法に対応するために、公表されたものです。

会社法が改正される前の状況

会社法が改正される前は、取締役の報酬等として株式を無償交付することは認められていませんでした。

その代わりに,取締役の報酬等として自社株式を交付する場合、

「金銭をいったん取締役の報酬等としたうえで,当該取締役が報酬支払請求権を現物出資する」

という形式により、株式を交付する実務が行われていました。

会社法改正後の報酬形態

改正会社法の
「取締役報酬等として株式を無償交付する制度」
を利用する場合、以下のどちらかの無償交付による株式報酬の形態を、選択することが想定されます。

①事前交付型

事前に譲渡制限を付した株式を取締役等に交付して、
一定期間の勤務
一定の業績目標等

の達成等によって譲渡制限を解除します。
譲渡制限が解除されなかった株式は、会社が無償取得します。

②事後交付型

一定の業績目標等を達成した場合、事後に取締役等に株式を交付します。

今回の、
「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」
では、この2つの株式報酬の形態についての会計処理が定められています。

会計処理の方法は?

会計処理については、4つ方法があります。
公開草案の設例にある仕訳を参考に、処理の概要を解説します。

1.事前交付型で新株を発行する場合

① 新株発行時 
 ⇒ 仕訳なし

 新株を発行し発行済株式総数が増加しますが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないことから、この時点では払込資本を増加させないことになります。

② 報酬費用の計上
 ⇒ 報酬費用/資本金

 勤務期間等の合わせて、当期に発生したと認められる額を費用計上します。 

③ 報酬費用の戻入
 ⇒ その他資本剰余金/報酬費用

 年度通算した結果、過年度に計上した費用を戻す必要がある場合は、その他資本剰余金を減額する仕訳を計上します。

④ 条件未達成で企業が無償で株式を取得する場合
 ⇒ 仕訳なし

 例えば取締役が自己都合により退任するなど,権利確定条件が達成されなかった場合、会社が無償で株式を取得します。無償であるので、自己株式の数のみの増加として処理することになります。

2.事前交付型で自己株式を処分する場合

① 自己株式処分時 
 ⇒ その他資本剰余金/自己株式

 報酬を自己株式の処分で行う場合、自己株式を減額するとともに、その他資本剰余金も減額する処理をします。

 報酬費用の計上
 ⇒ 報酬費用/その他資本剰余金

 勤務期間等の合わせて、当期に発生したと認められる額を費用計上します。なお対応する金額はその他資本剰余金で計上します。

③ 報酬費用の戻入
 ⇒ その他資本剰余金/報酬費用

 年度通算した結果、過年度に計上した費用を戻す必要がある場合は、その他資本剰余金を減額する仕訳を計上します。

④ 条件未達成で企業が無償で株式を取得する場合
 ⇒ 自己株式/その他資本剰余金

 例えば取締役が自己都合により退任するなど,権利確定条件が達成されなかった場合、会社が無償で株式を取得します。無償で取得した部分について、自己株式を増額させ、同額をその他資本剰余金として計上します。

3.事後交付型で新株を発行する場合

① 報酬費用の計上
 ⇒ 報酬費用/株式引受権

 株式の発行等が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権という科目が計上されます。

③ 報酬費用の戻入
 ⇒ 株式引受権/報酬費用

 年度通算した結果、過年度に計上した費用を戻す必要がある場合は、株式引受権という科目を減額する仕訳を計上します。

④ 新株を発行した時
 ⇒ 株式引受権/資本金

 新株を発行した場合には、株式引受権として計上した金額を資本金または資本準備金に振り替えます。

4.事後交付型で自己株式を処分する場合

事後交付型で新株を発行する場合と同じ処理となります。

最後に、自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と株式引受権の額との差額をその他資本剰余金として処理します。

注記の方法は?

注記については、基本的に、
ストック・オプション会計基準
ストック・オプション適用指針

に定められた注記事項に準じた処理となるとのことです。

注記事項は、

① 事前交付型について,取引の内容,規模およびその変動状況
② 事後交付型について,取引の内容,規模及びその変動状況
③ 付与日における公正な評価単価の見積方法
④ 権利確定数の見積方法
⑤ 条件変更の状況

といった5つの注記が必要となっています。

具体的な注記事項の内容や記載方法は、ストック・オプション適用指針に準じて行うこととしていますので、実務的にはそちらを参照する必要があります。

適用時期

改正法の施行日以後に生じた取引から適用することになっています。
(公開草案23)

改正法 = 2019年12月公布の改正会社法

改正法の施行日 = 2021年3月1日予定

2021年3月1日が改正会社法の施行日ですので、それ以降に、
「取締役報酬等として株式を無償交付する制度」
を導入した場合、この公開草案に従って会計処理をすることになります。

税務の扱いは?

現時点では、税務の扱いは明確にされていません。

しかし、会計処理自体が「ストック・オプション等に関する会計基準」の定めに準じていることもあり、税務もストック・オプションに近い対応になるのではと思われます。

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