今回は、子会社の不正会計が発覚したことを契機に、特別調査委員会を設置し、その後数々の会計不正が発見されて上場廃止の可能性が高まった、
「6675:サクサホールディングス」
の不正事例を分析してみます。
特別調査委員会の調査により、かなりの会計処理の不正を行っていた事実が、調査委員会の報告書で明らかにされました。
これを読むと、会計処理に関する不正手法がよくわかりますので、勉強になります。
ここからは、不正会計の内容について分析していきます。
☞この記事の解説者は、
●現役の東証一部上場企業の経理部長です。
●複数のIT系企業で、ソフトウェア会計処理も経験しています。
現在上場企業の経理部長で、ソフトウェア会計の実務処理も経験した私が、今回のサクサホールディングスの不正会計について、要点を絞って解説します。
サクサホールディングスの不正会計の経緯
サクサホールディングスの不正会計の経緯ですが、
2020 年6⽉に、
監査法人より、2017 年3⽉に連結⼦会社であるサクサシステムアメージング株式会社が計上した仕掛品について、不適切な会計処理があるとの指摘がなされました。
(開発プロジェクトの中断、規模縮⼩に伴う会計処理)
そして、2017 年9⽉に、
その子会社から、主要連結子会社であるサクサ株式会社に販売したソフトウェアについて、不適切な会計処理の疑念があると申し⼊れがありました。
(対象ソフトウェアの実在性有無と架空取引の可能性)
これをきっかけに、外部の専⾨家を含む特別調査委員会を設置し、調査を実施したとのことです。
不正会計の内容
特別調査委員会による調査報告書から、以下の不正会計処理が行われていたことが分かります。
●経理部⾨による不適切な決算調整
●売上のスルー取引
●超過開発受託費⽤の販売⽬的ソフトウェアへの振替
●⻑期滞留品の減損
●中国における贈賄の疑義
●売上前倒し計上の疑義
●保守サービス契約の収益認識
●⼦会社における不適切な会計
●ソフトウェア開発における会計処理等の誤謬
このように、多種多様の不適切な会計処理を⾏っていたことが判明したとのことです。
「かなりの事案で数値をいじっていた」という感じです。
通信機器関連のシステム開発を手掛けるサクサグループでは、ソフトウェア開発案件も多いようです。
このソフトウェア開発の会計処理は、数値をいじりやすいことから、しっかりとした内部統制が重要です。
不正会計の内容からも分かる通り、
●超過開発受託費⽤の販売⽬的ソフトウェアへの振替
は特にいじりやすい、不正会計処理の手法だと思います。
不正会計処理の修正状況
今回の調査により、
●2016 年3⽉期から 2019 年3⽉期までの有価証券報告書
●2018 年3⽉期第2四半期から 2020 年3⽉期第3四半期までの四半期報告書
の修正が行われております。
これを調査し、修正するまでには相当時間がかかったと思われます。
(対応された現場の方は、相当辛かったのではないでしょうか・・・)
有価証券報告書が提出できない状況が続き、一時は上場廃止が見えてきたところでしたが、なんとか間に合ったということで、直近の株価も乱高下していました。
5年間の修正数値の影響度をみると、
●売上高 ▲172百万円 ~ ▲1,073百万円
●営業利益 ▲71百万円 ~ 280百万円
●当期純利益 ▲96百万円 ~ 295百万円
といった範囲で修正が行われています。
修正前と比べて、利益が増加しているといったところもあり、意図的に利益を抑えていた状況も見受けられます。
正直言うと、業績への影響はあまりないようです。
期ずれを使った調整が多いようです。
一般的な会計不正は、損失を隠すことを多いですが、サクサホールディングスは他の不正会計と違う背景があるようです。
不正会計の背景
特別調査委員会による調査報告書は、400ページ近くの大作であり、読むのに苦労しますが、その中で不正会計を行った背景の記載がありました。
その背景ですが、
●経営陣が経営数値を過剰に意識している
●経営数値は作り出すもの・作り出されるものというような誤った考えが醸成されていた
●経理部⾨および開発部⾨による不適切な決算調整については、不正であることの認識が欠如していた
●業績予想の精度が低い、業績予想の修正を嫌っていた
こんな背景があったことが調査報告書から読み取れます。
調査報告書を読む限り、何年も前から数値調整することが慣習となっており、それをすることは悪いことだとすら思わなくなっていたようです。
いわゆるコンプライアンスの欠如ですね。
調査報告書では、何年も外部人材が登用されていないという指摘からも分かる通り、社外では誤った処理であるのに、社内では適正であったというものです。
社内で通用するルールは、社外へ出ると実は全く通用しないものだった・・・
これはどの会社でもありそうで、学ぶべき・注意すべき点だと思います。
個人的には、どの会社も経理部員は、定期的に中途採用をし、社外の考えを積極的に入れていく必要があると思います。
これからは、
閉鎖的村社会の会社は、コンプライアンス問題のリスクを抱える
こういう考えも重要だと思います。
もう1つ気になる点ですが、業績予想の修正を嫌っていた感が調査報告書から読み取れます。
おそらくこれも社風の問題で、業績予想を修正することは、見通しが甘いと思われ、恥だと考えていたのではないでしょうか。
利益を抑えて数値調整している理由も、この業績予想に合わせるためだとしたら納得できます。
私も似たような会社に在籍していたことがありますので、よくわかります。
過去から引き継いできた社風だったのでは!?と想定されます。
会社によっては、状況が変更したらすぐに業績予想を修正することころもあります。
昨今の市場は変化が早く、業績の変動も多いと思います。
過去の業績予想を修正することが「恥」という考えも古いのではないでしょうか。
不正会計のために、相当の作業時間を費やしていたはず
個人的には、
「業績予想の精度が低い、業績予想の修正を嫌っていた」
というのが根幹にあり、それから不正会計が波及していったのではないか?
と考えています。
できるだけ、業績予想の修正に該当しないよう、あらゆる方面で会計処理の微調整をしていたと思われます。
※報告書を読む限り、サクサホールディングスの内部では不正とは思わず、「会計処理の微調整」くらいに思っていたのではないか?と推測されます。
そして、親会社のみならず子会社関係者は、この会計処理の不正(微調整)に相当時間を費やしていたはずです。
数値をいじるには、それなりに処理の変更等の調整が必要です。
さらにバレないように数値の整合性をとるために、あちこち数値をいじったりしていると、相当な作業時間がかかっていたのではと思われます。
会計処理の不正・業績予想修正をしないために、相当な時間をかけていた…
なんか従業員は報われない気がするのは、私だけでしょうか・・・
株価の影響は?
修正の報告を出すまでには、株価は乱高下していました。
とくに9月末に、監理銘柄(確認中)への指定⾒込みのリリースがあったときには、一気に落ち込みました。
その後、訂正報告書が提出され上場廃止もなくなったことから、一気に株価が戻った状況です。
投資家としては、ヒヤヒヤものだったでしょうね。
株価が一気に落ち込んだ時に仕込めばよかったのかもしれませんが、そのまま上場廃止になったら目も当てられません。
それこそギャンブルですので、こんな時は投機は控えた方がいいですね。
まとめ
今回は、サクサホールディングスの不正会計処理について、私が調査報告書から読み取った内容を解説しました。
不正会計処理から、
●閉鎖的村社会の会社は、コンプライアンス問題のリスクを抱える
●業績予想修正は当たり前にやること(修正は恥ではない)
ということを、私なりに学びました。
他社の不正会計から、自社ではそうならないように認識を強めていく必要があります。
また、経理に関わる人は、
「世の中で起きている不正というものは、どんなものなのか?」
勉強しておいた方がいいでしょう。
自分たちが今まで普通にやってきたことが、世間では完全に不正会計だった・・・
ということを知っておくためにも、世間一般の会計不正パターンを勉強してほしいです。
(特に、不正会計を行った関係者には、以下の書籍を読んでほしい!)
↓世の中の不正パターンが分かり、勉強になります。
どの会社でも起こりうる、閉鎖的村社会の会社の、コンプライアンス問題・不正会計処理、
サクサホールディングスの事例を踏まえて、
「改めて自社の体制は大丈夫か!?」
と考え直すきっかけになります。
コメント